安値安定ソフト
最近、マーク3ソフトの入手が、困難になりつつありま
す。数年前には比較的安値で購入可能だったソフトが、
今では元の定価の2倍近くのお金を出さないと買えない
なんて事も珍しくありません。そもそも、マーク3ソフ
トを売っている事自体が希だったりします。恐らく現在
では、マーク3ソフトを扱っているゲームショップは、
都市圏に数店程しか存在しないでしょう。

しかし、現在のそんな状況下に於いても、未だに在庫が
豊富で、しかも安値安定で売られているマーク3ソフト
も存在していたりするのですから、世の中不思議なもの
です。マーク3ソフトを扱っている店には大抵在庫があ
り、秋葉原の某店に至っては、ほぼ新品同様の美品が、
「ファイナルバブルボブル」の売値にかかる消費税より
も安い値段で売られているソフト、それが今回紹介する
「剣聖伝」なのです。
ブームに乗り遅れたゲームの悲劇
一体何故「剣聖伝」は、未だに在庫豊富かつ安値安定で
売られているのでしょうか?まあぶっちゃけた話、発売
当時に大量に売れ残ったというのが理由なのですが、そ
もそも何故売れ残ったのでしょうか?それを説明する為
にはます、発売当時のゲームトレンドを振り返る必要が
あります。

当時、アーケード界には一つのヒット作がありました。
ナムコの「源平討魔伝」(以下「源平」と表記します)
です。それまでのゲームが西洋風の世界観が中心だった
のに対し、この作品は和風要素をふんだんに取り入れた
事で有名になりました。今でこそ珍しくありませんが、
当時日本刀を振り回すアクションゲームは、「源平」く
らいしかなかった為に、この斬新な世界観が多くのゲー
マーに支持され、見事に一大ヒット作となったのです。

さて、そうなると当然他のメーカーは、和風アクション
を作れば売れる、と思うわけでありまして、ファミコン
やパソコン等に様々な和風アクションが登場し、どの作
品もそこそこヒットし、和風アクションブームの到来と
なったのです。

「剣聖伝」は、そんな和風アクションブームの影響で登
場した作品だったのです。内容は、妖魔に支配された日
本を救う為に、日本刀を振り回して妖魔と戦うという、
どう見ても「源平」の2番煎じ的なゲームです。とは言
え、他のメーカーが発売した和風アクションも似た様な
ゲームだったし、これはこれで売れる・・・筈だったの
ですが、残念ながら売れなかったのです。マーク3の普
及率が低かったから、他機種の「源平」ライクのゲーム
よりは売れなかったのは当然としても、既存のマーク3
ユーザーにも、あまり買って貰えなかったのです。

売れなかった理由はいくつか挙げられますが、やはり最
大の理由は「ブームに乗り遅れた」という事でしょう。
この「剣聖伝」、「源平」ライクなゲームの中では一番
最後に発売されたのです。「源平」ライクなゲームが、
雨後のタケノコのごとく次々と登場し、ゲーマーから少
し飽きられつつある時期に、マーク3ソフトとしてひっ
そりと発売・・・これでは売れなくなるのも当然と言え
るでしょう。

おかげで、アーケードゲームの事など全く知らないシア
ワセなファミコンキッズからは、「剣聖伝」を指して、
「これ、月○○伝のマネしてるぅ〜」とまで言われる始
末。当時「剣聖伝」を発売日に定価で購入した私は、こ
の仕打ちに対し、ただただ耐える事しか出来ませんでし
た・・・。
実は隠れた名作!
以上の様な経緯から「剣聖伝」は、発売当時から大量に
余っている印象が強いソフトなのですが、実際の所ゲー
ムそのものもつまらないのでしょうか?確かに、大量に
売れ残っているゲームイコールつまらないと連想されが
ちですが、決してそんな事はありません。むしろ、隠れ
た名作と呼んでもいいと私は思っています。その理由を
ご説明致しましょう。

まず挙げられるのが面構成。マーク3ソフトの中では珍
しく、マップ移動から好きなルートを選択してゲームを
進める事が出来る、いわゆる分岐方式を採用しているの
です。裏技を使用せずに、ゲームの途中でプレイする面
を選択出来るアクションゲームは、「ロードランナー」
等のアクションパズル系のゲームを除けば、マーク3ソ
フトの中ではこの「剣聖伝」以外には存在しません。そ
れに伴って、攻略の自由度が増しているという点は特筆
すべきでしょう。

「剣聖伝」は難度が高いとよく言われますが、決してそ
んな事はありません。確かに、マイキャラの移動速度は
遅いし、連続ダメージをくらいやすいし、穴落ちするミ
スが比較的多めなので、そういう印象が強くなってしま
われがちですが、諸国漫遊してアイテムを集めたりライ
フゲージを増やしたりすれば、時間はかかりますが確実
に攻略出来る筈です。

更に、ある程度攻略して簡単にクリア出来る様になった
ら、今度は逆に極力寄り道しないで最短コースでのクリ
アに挑戦、といった遊び方も出来ます。全ての国を攻略
してクリアとなると1時間以上かかる事もありますが、
最短コースなら10分程度でクリアする事も可能です。

「剣聖伝」はこの様に、初心者から上級者まで楽しめる
アクションゲームに仕上がっています。こういうバラン
スの取れたゲームは、他ではなかなか見られません。

そしてもう一つ。修行面の存在も忘れてはいけません。
修行面はストイックな攻略が求められる上に、1回ミス
しただけで最初からやり直しになりますので、難度が少
し高くなっています。しかし、パターンさえ覚えてしま
えば攻略可能ですし、失敗してもライフが数ドット分減
る程度なので、つい何度でも挑戦してしまう魅力があり
ます。これは、操作方法を身につける為の、正に文字通
り「修行」する面と言えるでしょう。また、修行面の攻
略は強制という事もなく、どうしてもクリア出来なけれ
ば、いっその事パスしても構わないという所も、よく考
えられています。ただ、その場合はライフゲージを増加
させたり出来なくなるので、道中で「実戦での修行」を
強いられますけどね。
技術面や設定面での秘かなこだわり
実はこの作品、意外な事に(失礼!)技術面でもキラリ
と光る部分があったりします。

まずはタイトルロゴ。「ファンタジーゾーン」の移植で
も、サターン版の登場まで再現する事が出来なかった、
ラスター処理を施した通称「ウネウネタイトル」が、何
とこの「剣聖伝」では採用されているのです。こんな表
現方法は、マーク3ソフトでは「剣聖伝」以外にはあり
ませんので必見です。

次に驚かされるのが多間接キャラの存在。マーク3とい
うハードには、背景を部分的にスクロールさせる機能、
いわゆる「部分スクロール機能」というものがあるので
すが、それを利用する事によって、あるボスキャラは多
間接でグネグネ(と言う程大袈裟な物ではないけど)と
動くのです。多間接キャラと言うと、メガドライブ時代
からのアクションゲームには、ごく当たり前の様に登場
していますが、何と、マーク3のアクションゲームにも
強引ながら多間接キャラは存在していたのです!更に言
うなら、もしこの技術をマーク3の初期ソフトにも採用
する事が出来たならば、恐らくマーク3版ファンタジー
ゾーンにも、クラブンガーが登場していた事でしょう。

以上の2点の要素は、既に書いてきた通り、マーク3版
ファンタジーゾーンの移植の際に出来なかった事です。
もしかしたら、ファンタジーゾーンのマーク3への移植
に関わったスタッフは、実はこの「剣聖伝」も手がけて
いて、マーク3版ファンタジーゾーンでは出来なかった
事を、「剣聖伝」で実現して汚名返上したかったのでは
ないかと、思わず勝手な想像をしてしまう私です。

また、FM音源を聴く事の出来るマーク3ソフトの動作
環境をお持ちでない方には大変申し訳ないのですが、F
M音源バージョンのBGMは、ジャパネスクな雰囲気が
出ていて必聴だったりします。

そして忘れてはならないのがネーミングセンス。「猪毛
乱馬」、「棒邪苦武人」、「栖苦倭斗」・・・何て読む
かわかりますか?答えは順に「ちょもらんま」、「ぼう
じゃくぶじん」、「すくわっと」です。こいつらみんな
「剣聖伝」に登場する敵キャラの名前なのです。メガド
ライブの「武者アレスタ」の敵キャラのネーミングセン
スにも驚かされましたが、この「剣聖伝」にも、十分過
ぎる程のインパクトがあります。勿論これはマニュアル
が不備だと分からない要素ですので、これを楽しむには
少なくともマニュアル付の物を購入する必要があるので
すが、冒頭にも書いた様に、完品がやたらと余っている
ので問題ないでしょう。
だから今こそ剣聖伝!
しかし、これだけの作品であるにも関わらず、このゲー
ムの知名度は限りなくゼロに等しいです。ネットでマー
ク3の存在を知り、最近になってマーク3ソフトに触れ
たという人で、この作品を知っている人はそうはいない
と思います。何しろ、ネット上で語られる事が殆どない
マイナーゲームですから。試しに検索エンジンで調べて
みた所、「剣聖伝」のレビューを掲載している所は僅か
に数ヶ所しかなく、あってもせいぜい一言レビュー程度
に留まっています。「アレクのミラクルワールド」や、
「スペースハリアー」辺りだったら沢山あるんですけど
ね。まあ、所詮「真似ゲー」の一言で片付けられてしま
うゲームなので、仕方ないのですが。ゲーム自体もかな
り地味ですしね。

しかし!しかし!だから今こそ「剣聖伝」なのです。既
にここまで書いてきた様に、このゲームは「源平」ライ
クの一言では済まされない魅力があります。そんな隠れ
た名作が、ネット上等で話題になっているレアソフトが
続々と値上げされている中で、安価で入手する事が可能
なのです。まだプレイした事のないマーク3ユーザーの
皆さん、「ボンバーレイド」に二万円近くも出費する前
に、千円でもおつりがくる「剣聖伝」を、是非一度手に
取ってみて下さい。万人にオススメ、とまではさすがに
いかないまでも、少なくともマーク3ソフトの中では良
作だと思います。もしハズレだったとしても安いですか
ら、それ程ダメージにはならないでしょうしね。

最後に一言。このレビューの影響で、SG記録室のタイ
ムアタックの挑戦者が増える事を願ってやみません。


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