ゲーム誌が育てた名作
突然ですが、「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(以
下「ガンパレ」と表記します)というゲームをご存じで
しょうか?・・・と言っても、プレイステーション用の
ソフトなので、ここに来られる方の中にはご存じない方
も多いかも知れませんね。過去に前例の無い程の自由度
が売りのシミュレーションゲームで、プレイヤーの間で
は、プレイステーション一の名作との呼び声も高い作品
です。

しかし発売当初は、プレイステーションユーザーの中で
も、知っている人はごく僅かという程の、マイナーな作
品でした。プレイステーション情報誌に於いても、ファ
イナルファンタジーシリーズの様な大作的な扱いは全く
されず、次々と発売される凡百のソフトの一つとして取
り上げられていました。

ところが、「電撃プレイステーション」という情報誌だ
けは違いました。何と、毎月数十本単位でソフトが発売
されるプレイステーションの情報誌でありながら、話題
作でも何でもなかったこの「ガンパレ」を取り上げて、
2ヶ月連続で16ページもの特集を組んでしまったので
す。その結果、「電撃プレイステーション」の読者のク
チコミで、多くのプレイステーションユーザーに知れ渡
り、「ガンパレ」は名作と評される様になったのです。

この事は、ゲーム誌出版業界関係者の間でも、美談とさ
れているそうです。たった一誌の力で、他の多くのソフ
トの中に埋もれた作品を、ユーザーに正当に評価させ、
しかも名作として語り継がせたのですから、その功績は
大きいでしょう。正に、「ゲーム誌が育てた名作」と言
えます。

さて、マーク3ソフトの中には、この様な「ゲーム誌が
育てた名作」は存在しないのでしょうか?答えは否。昔
からのセガファンの間では伝説の雑誌と呼ばれている、
現「ゲーマガ」のご先祖様である「Beep」の力で育
てられた名作が、しっかりと存在するのです。それが今
回紹介する「ロードオブソード」なのです。
Beepにおけるロードオブソード
「Beep」は、コンピュータゲームの総合情報誌でし
たが、マーク3の情報を掲載する雑誌自体が皆無に等し
かったファミコン全盛期の当時にありながら、マーク3
をファミコンとほぼ同等に取り上げていた事で、当時の
セガファンの間では有名な雑誌でした。それ故に、当時
からのセガファンからは「伝説の雑誌」と呼ばれている
のです(伝説と呼ばれる理由は他にもありますが、ここ
では敢えてこう表現させて頂きます)。

とは言え、総合情報誌である以上、マーク3の情報ばか
りにページを割く訳にもいかず、マーク3の情報は毎号
10ページ前後に留まっていました。セが特集が組まれ
た事も何度かありましたが、その号でさえ20ページが
せいぜいでした(これでも、当時のマーク3の事情から
すると、驚異的なページ数です)。

そんな状況なのですから、たとえ毎月平均1本しか新作
が発売されないマーク3のゲームの情報でも、当時月刊
誌であったという都合上、天下の「Beep」ですら1
本のゲームについて沢山ページを取る事は出来なかった
のです。ましてそれが、「ファンタシースター」などの
大作でも無ければ尚更です。ちなみに、「Beep」誌
上でのマーク3情報では、「ブレードイーグル」の扱い
が最も悲惨で、見開き2ページの一番下の所に、いわば
ハミダシ情報程度にしか紹介されなかったという駄目っ
ぷりでした(しかも、掲載された画面写真はたったの2
枚)。

それでは、肝心の「ロードオブソード」はどうだったの
でしょうか?

そもそもこの「ロードオブソード」、発売前には全く話
題にならない作品でした。人気アーケードゲームなどの
移植作品でもなければ、「孔雀王」などの様な版権物で
もなく、ましてや「ファンタシースター」の様な大作で
もなかったのですから当然でしょう。おまけに、同時期
に「剣聖伝」や「キャプテンシルバー」といった同系統
の剣アクションゲームがたて続けに発売されていた為、
ユーザーの目には、「他と似た様な剣モノアクション」
としか映らず、とことん目立たない存在となってしまっ
ていました。おかげで、売り上げもあまり芳しくなかっ
た様で、現在に於いても「剣聖伝」同様、中古ショップ
に完品余りまくり状態になっています。

そんな「剣聖伝」と肩を並べる程マイナーな作品だった
「ロードオブソード」の「Beep」誌上での扱いはと
言いますと、通常は1タイトルにつき1号か、多くても
2号連続でしか紹介されないマーク3ソフトにあって、
何と、3号に渡って攻略記事を掲載する程大きく取り上
げられたのです。これは実に、同じく3号に渡って紹介
及び攻略記事が掲載された「ファンタシースター」とほ
ぼ同格の扱いです。当時は、「Beep」以外にもマー
ク3ソフトの情報を掲載している雑誌がいくつかありま
したが、「ファンタシースター」はともかく、ここまで
「ロードオブソード」を大きく取り上げていた雑誌は、
「Beep」以外には存在しませんでした。
名作?迷作?
一体何故、「ロードオブソード」は、ここまで「Bee
p」に支持されたのでしょうか?これ程大きく取り上げ
られたゲームなのですから、当然それなりの理由がある
筈です。

アクションRPGという事で、ストーリーが素晴らしい
のでしょうか?いいえ。確かに、「悪者をやっつけろ」
という目的ではなく、「3つの試練を乗り越えろ」とい
う目的のゲームは、当時としては斬新でしたが、それが
語られるのは導入部分のみで、ゲーム中のストーリー性
は希薄です。

では、アクションの部分の出来が素晴らしいのでしょう
か?違います。「北斗の拳」の様な作品には全くかない
ません。むしろ、なかなか手に馴染まないキャラクター
の動きに、イライラさせられます。

ならば、ビジュアルやBGMなど、ゲームには直接関係
ない部分に拘りを感じるのでしょうか?そんなバカな。
BGMは個人的には結構好きな方ですが、特筆すべき所
はないでしょう。

おまけに、道中で体力回復が出来なかったり、全体マッ
プが不親切で目的地に向かうルートが判り辛かったり、
村人は必ず3回以上話しかけないと新たな情報をくれな
かったり、話の展開上倒さなければいけない筈のボスを
無視してエンディングを迎える事が出来たりと、所々で
システムの練り込み不足、或いは作りかけという印象が
強いゲームになってしまっています。

ここまで読まれた方は、「ロードオブソード」を、単な
るクソゲーだと思われたかも知れません。事実、「ロー
ドオブソード」を購入した人の中には、面白さを見い出
せずに放り出した人も沢山います。しかし、ここで敢え
て言わせて頂きます。「ロードオブソード」は、断じて
クソゲーではありません。むしろ、セガマーク3のアク
ション史に残る名作とさえ言えます。

その理由は一つです。この「ロードオブソード」という
ゲームは、「プレイヤーを育てるゲーム」なのです。そ
してそれに気付き、読者にそれを教えてくれたのが、他
でもない「Beep」だったのです。
プレイヤーのレベルが上がる
では、実際「Beep」誌上ではどの様に紹介されてい
たのでしょうか?既に説明した通り、このゲームの難易
度は極めて高いです。キャラクターの操作がなかなか馴
染めず、システム的にもかなり不親切なので当然と言え
るでしょう。となると、必然的に攻略中心の記事になる
訳です。

その攻略記事の中に、「プレイヤーのレベルが上がる」
という表現がありました。このゲームには、別に経験値
の様な概念などなく、主人公がレベルアップして強くな
るといった事もありません。にもかかわらず、この記事
を書いたライターさんは、敢えて「レベル」という表現
を用いていました。これは一体何故でしょうか?

要するにこの表現は、レベルが上がるのは画面中のキャ
ラクターではなく、それを操作するプレイヤーだという
事を意味しているのです。更に言うなら、このゲームは
「プレイヤーが」レベルアップしなければ、攻略はまず
不可能なのです。

この表現は、一見「操作に慣れる」とか「アクションの
腕前が上達する」といった言葉に置き換える事が出来る
様で、実は違います。単純に操作に慣れるだけなら、道
中のザコと戦っている内に何とかなりますし、他と比べ
てクセが強いこのゲームを攻略したからと言って、そこ
で培ったテクニックが他のアクションゲームに応用がき
くという事もまずありません。

つまり、単純に操作に慣れるというだけでなく、「ロー
ドオブソード」を攻略する為だけのアクションの技術を
身につける事、これを「プレイヤーのレベルが上がる」
と表現していたのです。そしてこれが必要である事こそ
が、前述した「プレイヤーを育てるゲーム」の最大の特
徴なのです。
プレイヤーを育てるゲームとは?
では、「プレイヤーを育てるゲーム」とは、具体的にど
ういう物なのでしょうか?それを説明する為には、やは
り「乱舞剣」というキーワードは欠かせません。

「乱舞剣」とは、「Beep」のライターさんが命名し
たテクニックです。このゲームでは、剣を振った後、通
常は一旦剣を納めるので、連続して振る事が出来ないの
ですが、方向ボタンの右或いは左を押したまま剣ボタン
を連打すると、剣を連続して振る事が出来るのです。こ
れがあると、攻撃を2回以上当てないと死なないザコに
も強くなりますし、一部のボスキャラにはこれの連続だ
けで倒せる物もあったりしますので、攻略には必須のテ
クニックであると言えます。

このテクニックは、操作自体は単純ですが、マニュアル
には一切記載されていないので、自力で見付けるのは意
外と困難です。また、これを意識して自在に使いこなす
(しゃがみ状態で出したり、方向ボタンをニュートラル
にして逆に「乱舞剣」状態を解除する等、状況に応じて
使いこなす)には、それなりの修練が必要となります。
つまりこれは、何度もやり込んで、プレイヤーのレベル
を上げようと努力した者のみに使う事を許された物なの
です。「プレイヤーを育てるゲーム」だからこその特徴
です。

同様に、武器の仕様にもそれが現れています。このゲー
ムには、防御力やライフの上昇の要素は一切ありません
が、あるイベントをクリアしたり道中で見付けたりする
事で、武器を入手して攻撃力を上げる事は出来ます。し
かし、新たな武器を入手したからと言って、武器の使い
勝手が向上したり、攻撃範囲が広くなったりするという
事は全くなく、単純に攻撃力のみがアップするのです。
ですから、普通のアクションRPGではごく当たり前の
「強い武器を入手する事で攻略が楽になる」という事は
まずありません。つまりどういう事かと言いますと、こ
のゲームに於ける武器とは、単純にプレイヤーを助ける
という位置づけではなく、それなしでもやっていける者
だけが使う事を許される物、即ち「プレイヤーのレベル
を上げた者」に対するご褒美という位置づけなのです。

また、道中で体力回復が出来ない事も、「プレイヤーを
育てる」要素の一つです。道中で体力回復が出来ないと
いう事は、ザコとの戦闘にも気を抜く事は出来ないとい
う事です。他のゲームなら、「あ〜体力減ってきちゃっ
たな〜。でも薬草があるから大丈夫大丈夫。」てな具合
になるでしょうが、「ロードオブソード」にはそんな甘
えは許されません。かと言って、道中が特別難しいかと
いうとそうでもなく、どの敵も落ち着いて対処していけ
ば、大して強くありません。つまり、アクションのテク
ニックよりも、集中力を持続させる事を要求されるので
す。

そしてもう一つ、セーブが出来ない事も忘れてはいけま
せん。このゲームは、クリアまでに2時間近くはかかる
にもかかわらず、パスワードセーブもバッテリーバック
アップ機能もありません。辛うじてコンティニューはあ
りますが、10回までという回数制限付で、しかも使い
過ぎると、クリアしてもバッドエンドになるという徹底
ぶりです。

要するに、プレイヤーのレベルを上げ、最後まで投げ出
さずに試練を乗り越えた者にのみ、エンディングを見る
権利が与えられるという事なのです。単純に小手先の技
を磨くだけでなく、プレイヤーとして成長しない限り、
この権利を得る事は到底不可能でしょう。

ゲームの中のキャラクターが成長するゲームこそ数あれ
ど、プレイヤー自身が成長するゲームは滅多にありませ
ん。プレイヤーとしての成長を感じる事が出来、その見
返りとして流れるグッドエンディングを鑑賞した時の喜
びは格別です。だからこそ私は、「ロードオブソード」
をマーク3のアクション史に残る名作だと思うのです。
だから今こそロードオブソード!
しかし、これらの「ロードオブソード」の面白さの要素
は、制作者が意図して盛り込んだとは到底思えません。
先にも書きましたが、作りかけという印象が強い事には
変わりませんし、ゲームバランスの調整などする暇なく
急いで発売したゲームである気がしてなりません。

普通なら、こんなゲームをゲーム情報誌で紹介する際、
他の作品の陰に隠れてひっそりと掲載されるか、せいぜ
いクソゲー特集で取り上げられる程度でしょう。しかし
「Beep」は、それとは全く逆の選択をしてしまった
のです。そして、「ロードオブソード」の面白さ、楽し
み方を見い出し、見事に名作に育て上げてしまったので
す。事実、「ロードオブソード」を名作と称える人は、
ほぼ例外なく元「Beep」の読者で、「Beep」の
攻略記事を元にゲームをクリアしています。

誰も見向きもせず、ともすれば只の駄作に終わってしま
う様な作品を敢えて取り上げ、それを育て上げてしまう
というゲーム雑誌は、現代では滅多に見かけません。冒
頭の「ガンパレ」を例に上げた「電撃プレイステーショ
ン」と「ゲームサイド」くらいしかないでしょう。それ
だけに、「Beep」誌上の「ロードオブソード」の記
事は非常に価値のある物であり、それは単にプレイヤー
としてのレベルアップのみならず、ゲーマーとしてのレ
ベルアップに繋がる記事でもあったのだと言えるでしょ
う。

ゲームは本来楽しむ物、そしてその楽しさは自分で見付
ける物、それを教えてくれたのが「Beep」であり、
「ロードオブソード」なのです。ただ最新情報を垂れ流
すだけのゲーム雑誌、遊び方どころか楽しみ方の指示ま
で細かくされているガチガチのゲーム・・・そんな現代
のゲーム事情に疲れてしまったら、ちょっと「ロードオ
ブソード」を手に取って、プレイヤーとしての、そして
またゲーマーとしてのレベル上げにチャレンジしてみま
せんか?


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