最も期待されたソフト
ドリームキャストユーザーで、「莎木(シェンムー)」
の名を知らない人は、まずいないでしょう。本体の発売
とほぼ同時期に発表され、多くのユーザーが期待してい
た、ドリームキャストの超大作ソフトでした。恐らく、
過去に発売されたドリームキャストソフトの中で、発売
前に最も注目を集めていたソフトであった事は間違いな
いでしょう。

さて、そんな期待の超大作の「莎木」でしたが、いざ発
売したらどうなったか・・・。いきなり発売日直後から
新品が余りまくり、2週間も経てばワゴンセール、更に
一ヶ月もすれば、ゲームメディアやネットのあちこちで
バカゲー扱いやらクソゲー扱いされるという、見るも無
惨な結果となってしまいました。

一体何故こんな事に・・・という話はさておき、今振り
返ってみると、「莎木」は、ドリームキャストの象徴と
も言うべきソフトだった様に思えます。良くも悪くも、
これ程話題になったドリームキャストソフトは他にない
でしょうし、少なくとも、制作費がここまで有名になっ
たゲームは他にありません。ソフト売り上げの「記録」
には残りませんが、ユーザーの「記憶」には残るという
点から、ドリームキャストの代表作と言ってもいいので
はないでしょうか。

さて、ここで時代はマーク3/マスターシステム全盛期
まで遡ります。当時のユーザー達は、ある一本のソフト
の発売を待っていました。アーケードで大人気のあの体
感ゲームが、自宅でプレイ出来る日が近付いていたので
す。恐らく、当時最もユーザーから期待されていたソフ
ト、そう、それこそがマーク3版「アフターバーナー」
だったのです。
そして発売へ、そして伝説へ・・・。
アフターバーナー・・・当時体感ゲームブームを巻き起
こしたセガが生み出した体感シューティングです。映画
「トップガン」の迫力をそのままゲームにしてしまった
かの様なアツい戦闘機同士のドッグファイトは、それま
でにない興奮をユーザーに与えていました。言うまでも
なく当時のアーケード界では一番人気でした。そしてま
た、いつかこの興奮を自宅で味わえないものかと、家庭
用ゲーム機に移植される日を心待ちにしていたファンも
決して少なくありませんでした。

そしてついにその時が来ました。マーク3版「アフター
バーナー」の発売が決定したのです。しかも、業界で初
の4メガビットロムという、当時のコンシューマ用ソフ
トとしては大容量のロムを採用したのです。あの「アフ
ターバーナー」が移植される!しかも4メガで!マーク
3ユーザーは皆大喜びでした。

しかし期待の高まる一方で、不安に思うユーザーも少な
くありませんでした。あんなに凄いゲームが、マーク3
でまともに再現出来るのだろうか?と。既に「スペース
ハリアー」や「アウトラン」等、非常に無理のあった移
植作品を見てきたユーザーにとっては、あまり手放しで
喜べない発表でもありました。

そしてついに発売!!・・・したのですが、残念な事に
不安が見事に的中してしまいました。確かに360°回
転の再現や、「スペースハリアー」の移植時に指摘され
ていた、敵キャラクターや破壊エフェクトの「枠」の排
除等、4メガビットロムならではとも言うべき高度な技
術の数々は素晴らしかったのですが、肝心のゲームの面
白さを移植する事が困難だった様です。

ユーザーの反応も散々な物でした。「つまらない」「最
悪」「スピード感がない」「ゲームになってない」「2
分で飽きた」「即封印した」「思わずロムを分解した」
などなど、なまじ期待が大きかった分、不満や怒りが大
爆発してしまいました。「Beep」(現「ゲーマガ」
のご先祖様)誌上でも、読者の怒りを代弁するかの様に
タイトルを伏せる意味で子音を省略して「アウアーアー
アー」などと書かれてしまう始末。この呼び名は、今で
も一部のマーク3ファンに語り継がれる程有名になって
しまいました。

かくいう私も、発売日を指折り数えて待ち、発売日にな
ると喜び勇んでおもちゃ屋に駆け込み、問屋さんの都合
で入荷が半日遅れるというハプニングにもめげずに、入
荷された夜8時くらいまで店内でずっと待っていた思い
出まであるのですが、結局購入から一週間もしない内に
飽きてしまいました。

以上の様に、マーク3版アウアーアーアー・・・もとい
アフターバーナーは、マーク3ソフトの中でも特に有名
なクソゲーとして認知されるという、非常に不名誉な結
果を残す事になってしまったのです。
実はマーク3の代表作!
しかし、ここで私は声を大にして言いたいのです。「ア
フターバーナー」はマーク3の代表作である!と。それ
も、クソゲーの代表等といった悪い意味での代表作とい
う事ではなく、正真正銘、全てのマーク3ソフトの中心
となる作品、という意味で。

一度でもプレイした事のある人、特に発売当時に定価で
買ってしまった人は、何故こんなクソゲーがマーク3の
代表作と言えるのか、不思議に思われる事でしょう。ま
た、「ファンタシースター」や「アレックスキッドのミ
ラクルワールド」等、他にマーク3の代表作と呼ぶに相
応しいとされるタイトルを挙げる方もいらっしゃるかも
知れません。

しかし違います。上記のタイトルはマーク3の「名作」
である事は間違いないでしょうが、「代表作」と呼ぶに
は相応しくない、と言うより、「アフターバーナー」以
上に存在感のあるソフトではない、という事なのです。

では、何故「アフターバーナー」は代表作と呼ぶに相応
しいと言えるのでしょうか?その理由はただ一つ、マー
ク3ユーザーを最も熱狂させたソフトだからです。

既に書きましたが、「アフターバーナー」の発売前から
発売後に至るまで、マーク3ユーザーの興奮はかなりの
ものでした。勿論、業界初の4メガビットロムを採用し
たという点も大きかったのですが、何よりも、有名アー
ケードゲームの移植作品である所が、ユーザーを熱狂さ
せた最大の要因と言えるでしょう。これには、マーク3
時代のセガの体制にも大きく影響しているのではないか
と思います。

マーク3時代をご存じでない方には信じられない話かも
知れませんが、当時のセガは、現代以上にアーケードの
ヒット作品をコンシューマハードに移植してラインナッ
プを充実させるという傾向が強く、逆に移植作品でない
オリジナルソフトには、それ程力を入れていなかったの
です。これは、単にプログラマーが手を抜いたというだ
けではなく、宣伝等でも移植作品を重視していた、とい
う意味もあります。

一例を挙げてみましょう。マーク3初の1メガゲームソ
フト、いわゆるゴールドカートリッジが発売された時の
TVCMのお話です。最初に発売されたゴールドカート
リッジソフトは、「ファンタジーゾーン」、「極悪同盟
ダンプ松本」、「北斗の拳」の3本でした。で、CMも
当然ながらこれらのソフトをアピールする内容だったの
ですが、「ファンタジーゾーン」をメインに、残りの2
本はオマケといった感じの構成だったのです。このゴー
ルドカートリッジ編CMは2バージョンありましたが、
それぞれ「ファンタジーゾーン、そしてダンプ松本」、
「ファンタジーゾーン、そして北斗の拳」というナレー
ションが入る所からもわかります。映し出されるゲーム
画面も「ファンタジーゾーン」ばかりで、「北斗の拳」
や「極悪同盟ダンプ松本」は、30秒CMでありながら
僅かに3秒程度でちょっぴり紹介、程度に留まっていま
した。

「北斗の拳」も「極悪同盟ダンプ松本」も版権モノのタ
イトルです。しかも、当時は「北斗の拳」は漫画もアニ
メも全盛期、女子プロブームでヒールレスラーの象徴と
も言うべきダンプ松本も大人気、という時代だったので
すから、本来ならこの2本をもっとアピールしてもいい
筈だったのです。しかしセガは、敢えて人気アーケード
ゲームの移植作品である「ファンタジーゾーン」の宣伝
を重視したのです。

メーカーがこういう姿勢なのですから、ユーザーも当然
移植作品イコール大作という考えになってきます。だか
らこそ、「アフターバーナー」という超大作の移植が決
定した時は大騒ぎ、そして発売日に大騒ぎ、更にやって
みたら期待ハズレだったからやはり大騒ぎ、となったの
です。

では、一体どれ程騒がれたのでしょうか?実は当時、そ
れを証明する事件が起こりました。

それは、「Beep」の裏技コーナーでの事です。この
コーナーでは、マーク3ソフトの裏技を読者から募集、
掲載していたのですが、なんと「アフターバーナー」の
裏技だけで2000通以上もの投稿があったのです。こ
れ、冷静に考えてみるとかなり凄い数です。何故なら、
この投稿者の条件が、「ファミコン全盛期でありながら
マーク3ユーザーでかつアフターバーナーを購入、更に
裏技を発見して投稿するまでに至ったBeep読者」な
のですから。こんな人が全国に2000人以上もいたの
です。参考までに、当時のファミコンのTVゲーム市場
でのシェアは95%くらいで、マーク3はその残った僅
か5%の中の、「その他のTVゲーム」の一つに過ぎな
かったのです。つまりマーク3ユーザーは、もしかした
らクラスに一人くらいはいたかも知れない、という程度
にしか存在しなかったという訳です。

そんな状況だったのですから、「Beep」編集部でも
想像以上の投稿数に大パニックだった模様。おかげで、
「アフターバーナー」の裏技の紹介記事の小見出しが、
「もう送らないでくれ!」となってしまいました。裏技
募集の告知を掲載しておきながら、これ程矛盾した小見
出しも珍しいでしょう。

これ程のパワーを有したマーク3ソフトは、「アフター
バーナー」以外にはまずありません。「北斗の拳」にし
ても「アレスタ」にしても、名作と語られる事はあって
も、話題性という意味では「アフターバーナー」には到
底及ばないでしょう。だからこそ私は、「アフターバー
ナー」がマーク3ソフトの代表作であると主張したいの
です。そしてそれは、冒頭で紹介した、DCユーザーに
とっての「莎木」に匹敵する程のものであると思うので
す。
「アフターバーナー」の移植とは
ところで、なまじ代表作となるべくして生まれてきたタ
イトルであるが故に、叩かれまくるハメに陥ったマーク
3版「アフターバーナー」、確かに決して移植度の高い
作品とは言い難いシロモノでしたが、だからと言って駄
作と決めつけるのは早計なのではないでしょうか?

「アフターバーナー」というゲームを詳しく検証してみ
ましょう。このゲームのウリは何と言っても「体感する
事」と「圧倒的なスピード感」です。ムービングシート
が、プレイヤーをあたかも戦闘機に乗っているかの様に
錯覚させる程に機敏に反応し、画面上はこれでもかと高
速で迫り来る背景と迫り来る戦闘機。これこそが、「ア
フターバーナー」の面白さの要素でしょう。しかし、も
しこの2つの要素がなければ、「アフターバーナー」は
退屈なシューティングに成り下がってしまうのではない
かと私は思うのです。

何故なら、シューティング部分の底が浅いからです。特
殊なアイテムでパワーアップさせてゲーム性を高めてい
る訳でもなく、特徴あるキャラクターが画面上を彩って
くれる訳でもなく、そもそもシューティングではごく普
通に登場する「ボス」の存在すらありません。また、こ
れまたシューティングではごく普通の要素である、スコ
アを稼ぐ楽しみもありません。スコアの概念はあっても
それを稼ぐプロセスに何の工夫もなく、ただ単に多くの
敵を倒せばハイスコア、というだけなのです。要するに
シューティング部分だけ見れば、「アフターバーナー」
は三流以下の駄作とさえ言えるのです。

という事は、「アフターバーナー」の移植の際に、先に
挙げた2つの要素「体感する事」と「圧倒的なスピード
感」は絶対欠かせず、仮にどちらの要素も移植出来なけ
れば、三流以下のゲームに成り下がってしまうのです。

マーク3版「アフターバーナー」の話に戻しましょう。
マーク3に移植する際、プログラマーはこの2つの要素
をいかにして盛り込むかで、相当頭を悩ませたに違いあ
りません。しかし、マーク3のスペックではどう足掻い
ても無理だったのでしょう。結局この2つの要素は移植
されずじまいでした。ムービングシートの再現が出来な
かったのは仕方ないと諦めるとしても、スピード感の再
現が出来ないとわかった時には、プログラマーとしては
さぞや無念だった事でしょう。

しかしそうすると、三流以下のゲームになってしまいま
す。そこでプログラマーが考えたのが、マーク3版のみ
のオリジナル要素。それがボスキャラの存在です。この
ボスキャラは、アーケード版からするとちょっと浮いた
感じになってしまいますが、マーク3版では不思議と違
和感を感じさせません。また、最終面のボスキャラは、
倒さないとクリア出来ない様になっています。元のゲー
ムは極端な話、全て避けてしまえばクリア可能だったの
ですから、そういう意味ではこのマーク3版は、オリジ
ナルにはない新たなゲーム性を加え、攻略の楽しみを更
に深めた作品と言ってもいいでしょう。

体感も出来なければスピード感もないマーク3版「アフ
ターバーナー」は、最早別物と言われても仕方のない物
になってしまいました。更に、オリジナルの特徴の一つ
であった背景の美しさも再現出来ず、「Beep」の読
者コーナーの投稿ネタにもありましたが、はっきり言っ
て背景はエクセリオンです。しかし、だからこそマーク
3版ならではの要素を入れる事が出来た・・・と言いま
すか、入れざるを得なかったのでしょう。これはもう、
「移植作品」ではなく、「マーク3作品」であると言う
べきではないでしょうか。

「マーク3作品」と割り切る事が出来れば、アーケード
版では出来なかった遊び方も出来ます。マーク3版では
困った事に、方向ボタンの右か左を押したままにしてお
くと、12面まで進めてしまうというあんまりな仕様が
あるのですが、それを禁じ手にして純粋にシューティン
グとしてプレイすると、意外と歯応えのあるゲームであ
る事がわかります。マーク3版ではバルカン砲やミサイ
ルの連射が利かず、更にミサイルは、ホーミング性能が
アーケード版と比較してかなり落ちているので、うまく
狙って撃つ必要があります。また、マーク3版では、バ
ルカン砲で敵ミサイルを撃ち落とせるという豪快な仕様
があるのですが、撃ち落としたミサイルの数も撃墜数に
カウントされますので、アーケード版以上に撃墜数の稼
ぎが奥深くなっています。それを踏まえた上で、3面ク
リア時の撃墜数を競うスコアアタックなどを行えば、想
像以上に熱くなれます。

このスコアアタックの面白さを見出せたおかげで、発売
当時にはすぐ飽きてしまった「アフターバーナー」です
が、今では記録更新の為に時々プレイする様になりまし
た。殆ど連射しっぱなしで手が疲れますが、記録を更新
した時の気分は最高です。

この様に、ほんの少し見方を変えれば、マーク3版「ア
フターバーナー」は、決して駄作ではないと私は思うの
です。
だから今こそアフターバーナー!
この「思い入レビュー」のコンセプトは、「マイナーだ
が面白く、かつ現代でも比較的入手が容易なマーク3ソ
フト」の私的レビューを書くという事になっています。
そういう意味ではこの「アフターバーナー」、入手のし
易さは問題ありませんが、マイナーという条件には当て
はまっておらず、コンセプトから外れています。

にもかかわらず、敢えて今回「アフターバーナー」を取
り上げたのは、やはりマーク3の代表作であるという事
と、「移植作品」ではなく「マーク3作品」としてのレ
ビューを書いてみたかった事、この2点を踏まえての事
だったのです。「移植作品」としてのレビューは数あれ
ど、「マーク3作品」としてのレビューは、意外と見あ
たりません。そういう意味では、レビューの仕方そのも
のが「マイナー」と言えるかも知れません。

確かに、単に「移植作品」と考えれば、マーク3版「ア
フターバーナー」は駄作と言われても仕方のない事だと
思います。しかし、少し観点を変えて見れば、この作品
は決して駄作ではないのです。いや、それどころか「代
表作」とさえ呼ばれてもおかしくないのです。

あまりに酷い移植度という事で、即座に封印してしまっ
たマーク3版「アフターバーナー」のオーナーの皆様、
また、マーク3版の移植度が低いという評判を聞いて敬
遠してしまっているマーク3/マスターシステムのオー
ナーの皆様、今一度、マーク3版「アフターバーナー」
を手に取ってみて下さい。「移植作品」としてではなく
「マーク3作品」、いや、「マーク3の代表作」として
見てやって下さい。そして、一度でもいいですからスコ
アアタックに挑戦してみて下さい。もしかしたら評価が
変わるかも知れませんよ。


このページの一番上へ

レビュー選択画面へ

メインページへ