ハード信者 (その2) |
バー「芸魔の巣」のカウンターに強引に座らされた曽弐 は、不満げな表情で、吐き捨てるかの様にビールを注文 した。喪黒は、水割りを注文した。 喪黒は、出された水割りを一口飲み、尋ねた。 「さて、先程のお話の続きです。一体何故ああまでPS やPS2を誉め称え、DCをけなすのですか?」 曽弐は、ビールを一気に口に流し込み、ため息混じりに 答えた。 「だからさっきも言ったじゃねえか!PS2は名実共に ナンバーワンハードで、DCはSGマニアと・・・。」 「本当にそう思われているのですか?ただ単に、アナタ が最初に購入されたハードがPSで、その流れでPS2 を賛美し、反動で他ハードであるDCをけなす行為をさ れているだけなのではないですか?」 曽弐は一瞬ギョッとしたが、すかさず反論した。 「ち、違う!俺は世間一般の評価を言っているんだ!」 「世間一般の評価なんて関係ありません。ワタシは、ア ナタがどう思われているかをお尋ねしているのです。」 「いや、だ、だからその、」 「どうなのですか!?」 喪黒は曽弐に迫った。喪黒の目つきは、曽弐の心を全て 見透かしているかの如く鋭かった。これにはさすがの曽 弐も耐え切れず、 「わ、わかった、悪かったよ!白状するよ・・・。」 と、ついに観念した。それを聞いた喪黒は元の席に座り 直し、何事もなかったかの様にグラスの水割りを口に運 びつつ、曽弐の次の言葉を待った。やがて、少し落ち着 きを取り戻した曽弐が、ぽつりぽつりと話し始めた。 「アンタの言う通りだよ。周りの奴等がPSの話題でも ちきりだったからさ・・・PS買ったんだよ。それまで テレビゲームって奴は所詮子供だまし程度の物って印象 しかなかったんだが、実際やってみるとすっげえ面白い ものだってわかってな、それ以来ソフトもいろいろ買う 様になって・・・いつの間にか周りの連中からマニアっ て呼ばれる様になってたんだ。」 「テレビゲームも随分と進化しましたからネェ。昔のテ レビゲームと比較すると、今のテレビゲームには本当に 驚かされますネ。」 「全くだよな。でな、ある日パソコン買って、インター ネット始めたんで、ネット上にPSユーザーってどれく らいいるのかな?って軽いノリで検索してみたらさ、も う出るわ出るわ!何万とヒットするんだよ。だからさ、 こうなったら片っ端からいろんなサイトを見てやろうっ て事で見て回ったらさ、なんつうか・・・妙にエキサイ トしまくった所がいくつかあってな。どいつもこいつも み〜んな他ハードの悪口ばっかほざいてやがるんだよ。 特に多いのがSG社とそのハード、つまりDCの悪口。 やれギャルゲーしかウリがないだの、やれマニアックだ の、やれつまらんから売れないだのと、もう言いたい放 題さ。最初は俺も『アホかこいつら』と思っていたんだ が・・・そういうサイトに入り浸っていたら、だんだん 影響されてきたみたいでな、SGファンがPSファンの 敵みたいに思えるようになって、いつの間にかネット上 でSGの悪口書きまくったり、時にはSGファンと論争 したりする様になったんだ。」 「なるほど・・・では、先程のお店で御一緒だったお仲 間も・・・。」 「ああ、ネットで知り合ったPS仲間さ。時々あいつら と一緒にショップでSGファンをけなすのも、今はもう 恒例だな。最初の内はただのショップ巡りの為のオフ会 だったんだがな・・・。」 曽弐は、遠くを見つめる様な表情をしていた。少し間を 置いて、喪黒が再び尋ねた。 「おや?と言う事は、SGファンにもDCファンにも、 元々何の恨みも無かったのでは?」 「そりゃあそうさ。そんな道理もねえし、以前は自分の 好きなゲームで遊んでいるだけで、それで十分満足だっ たしな。そもそもゲーマーってそういうモンだろ?」 「仰る通りですネ。」 「それが今じゃ、自分のHP開設して、そこでSGへの イチャモン専用掲示板まで用意する始末さ。本当は、い い加減こんな事やめたいんだがな。」 「ならば、思い切ってDCを買われてはいかがです?D Cの名作を何本かプレイすれば、考え方も変わると思い ますが?」 曽弐は、深いため息をついて答えた。 「それがなあ・・・なかなか踏ん切りつかねえんだよ。 ネット上で散々『PS万歳、DC最悪』と吠えまくって いたせいか、だんだん自分の中でDCにケチがついてき ちまって・・・。DCのゲームなんて、ロクにやった事 もねえのにな。それに、そんな事したら他のPS仲間に 裏切ったとか思われそうだしな。」 喪黒は、水割りを一気に飲み干して席を立った。 「よろしい!私がお力になりましょう。明日、また同じ 時間にここに来て下さい。アナタにお譲りしたい物があ ります。」 「ああ?何だそりゃ?」 「まァいいからいいから。では、私は準備がありますか らこれで。」 喪黒は、そそくさと店を出て行った。 「・・・何なんだ一体?」 一人残された曽弐は、あっけに取られていた。 |