ハード信者
(その3)
翌日、曽弐は喪黒に言われた通り、バー「芸魔の巣」の
カウンターに座って待っていた。約束の時間が10分程
過ぎた頃、ようやく喪黒が姿を現した。
「やあ曽弐さん、遅くなってしまって申し訳ありません
でした。」
「・・・もう帰ろうかと思っていた所だぜ。で、俺にく
れる物って?」
「ハイ、実はこれなのです。」
そう言うと喪黒は、持参した紙袋から黒光りする物体を
取り出した。よく見るとそれはTVゲーム機の様であっ
た。
「ん?何だこれ?ハードか?でも、こんなの見た事ない
な。何て名前だ?」
「MULTI−Xです。」
「まるちえっくす?何じゃそりゃ?聞いた事ねえぞ。」
「これ一台で、メーカーを問わず現行の全てのハード対
応ソフトが起動可能という、大変画期的なハードなので
す。」
「な、何だって!?そんなとんでもない物、いつの間に
発売されたんだ!?」
「いえ、実はこれ、一般向けに販売されていないハード
なのです。混沌としたTVゲーム界におけるハード信者
同士の無意味な争いをこれ以上見たくない、という理由
で、ある有名なゲームクリエイターさんが有志を募り、
そのメンバーによって開発されたハードなのです。しか
し、現行のハードメーカーの圧力により、結局一般販売
が実現する事はなかったのです。」
「なるほどな・・・確かにそんなハード開発されたら、
現行のハードメーカーは黙っちゃいないだろうな。」
「ハイ。おかげで、今存在するMULTI−Xは、開発
に関わったクリエイターさんの一部が所有されている、
僅か数台だけだそうです。」
「ふ〜ん。でも、何でアンタがこんなモン持ってるんだ
よ?」
「まァちょっとした入手ルートがありまして。そんな事
より、これをアナタにお譲りしたいのです。」
「え?・・・いや、別にいらねえよ。PS2があれば事
足りるし、別にコレクターって訳でもねえし。」
「いいえ、是非お受け取り下さい。これがあれば、PS
やPS2のゲームは勿論、DCのゲームだって出来るの
ですよ。DCのゲームの真の姿を知る、いいキッカケに
なるのではありませんか?」
「そりゃまあそうだけど・・・。」
「それに、アナタが今まで拘っていたのは、所詮対応す
るハードの違いのみ。PS2ソフトもDCソフトも同じ
ハードで起動可能ならば、そんな拘りも意味を成さなく
なります。DCに対する偏見も、これでなくなるのでは
ありませんか?DCファンとも論争せずにお付き合い出
来るでしょうし。そうすればアナタは、単なるハード信
者ではなく、本当の意味でのゲーマーになれると思いま
すヨ。アナタにとってはその方がいいのでは?」
「言われてみれば、確かに。」
「でしたらご遠慮なくお受け取り下さい。」
「でもこれ、レアハードなんだから当然高いだろ?何万
もするんなら、万年金欠病の俺には買えないぜ?」
「その点はご心配なく。無料で差し上げますヨ。」
「タダで!?いいのか?こんなモン貰っちまって?」
「どうぞどうぞ。ついでに名作と呼ばれるDCソフトも
何本かお付けしておきます。」
喪黒はそう言って、紙袋から4〜5本程のDCソフトを
取り出した。
「じゃあ、遠慮なく貰っておくよ。なんかワリイな。こ
んなに沢山。」
「いえいえ、お気になさらずに。但し一つだけ約束して
下さい。先程も申し上げましたが、このMULTI−X
というハードは、ハード信者同士の争いを見たくないと
いうゲームクリエイターさんの想いがあったからこそ、
実現した物です。ですので、アナタがこれを受け取った
からには、今後他ハードやそのユーザーの悪口を言う事
は、2度としないで頂きたいのです。特に、SGやDC
に関しては絶対です。」
「う・・・う〜ん。2度と、か・・・。でもまあこれの
おかげでSGファンやDCユーザーと敵対する理由は完
全に無くなりそうだし、わかったよ、約束するよ。」
「そうですか。それを聞いて安心しました。」
「ま、せいぜい遊ばせて貰うよ。」
「はい、存分に楽しんで下さい。では私はこれで。」
喪黒は軽く頭を下げてから立ち去った。曽弐は、譲り受
けたハードやソフトを見ながら呟いた。
「・・・なんか胡散臭いオッサンだったな。でもコレ、
マジでどのソフトでも動くのか?」
曽弐は半信半疑であった。

(その4へ続く)



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