ここはとある中古ゲームショップ。店頭に並んでいる、
ある一本のソフトのパッケージを見ながら、厚目は一人
悩んでいた。
「う〜ん・・・ついに『鉄鋼共和国』を発見したけど、
¥24800か・・・う〜〜ん・・・。」
とその時、厚目の目の前を一人の男が通り過ぎ、「鉄鋼
共和国」のパッケージを持ち去ってしまった。
「ああ!!」
厚目が叫んだ時には、既に男はレジにいる店員にパッケ
ージを渡していた。
「はあ・・・先を越されたか・・・。」
厚目はガックリと肩を落とし、トボトボと店を出た。と
その時、
「もしもし。」
背後から呼びかける声が聞こえた。慌てて厚目が振り返
ると、先程「鉄鋼共和国」を購入した男が立っていた。
「あ、さっきの・・・何か御用ですか?」
厚目が話しかけると、男は「鉄鋼共和国」を取り出して
言った。
「これ、アナタも欲しかったんですか?」
「え?・・・ええ。ずっと前から欲しかったソフトで、
ようやく発見したはいいのですが、値段が高くて購入を
ためらってしまって・・・迷っている内に貴方に先を越
されてしまいました。」
「ああ、そうでしたか。それは失礼しました。」
「いえ、いいんですよ。お気になさらないで下さい。」
そう言って、厚目は立ち去ろうと男に背を向けた。する
と、
「あの〜。」
再び呼びかける声が聞こえた。
「まだ、何か・・・?」
厚目が再び振り返ると、男は「鉄鋼共和国」を差し出し
て言った。
「気が変わりました。このソフト、アナタにお譲りしま
す。」
「ええ!?いいんですか?こんな貴重なソフトを。」
「はい。よく考えたらワタシ、このソフトに興味ありま
せんでした。」
「は、はあ・・・。なら、何故買われたんですか?」
「まあまあ。そんな事より、このソフトいらないんです
か?」
「ほ、欲しいです!是非譲って下さい!え〜っと、お代
は・・・。」
「あ、お金は結構ですヨ。タダで差し上げます。」
「そ、そんな!2万円以上もするソフトなのに、そうい
う訳には・・・。」
「いやいや。お気遣いは無用です。ずっと探していたソ
フトなのでしょう?」
「そ、そりゃあ、まあ・・・。」
「だったら遠慮なさらずに。このソフトも、アナタの手
元にある方が幸せでしょう。」
「そうですか・・・では、有り難く頂戴致します。それ
にしても、こんなに高価なソフトを、見ず知らずの僕に
ポンと差し出すなんて、貴方一体・・・?」
「はい、実はワタシ、こういう者でして。」
男はそう言って、名刺を差し出した。
ゲーマーのココロのスキマ
お埋めします
喪黒外夢造 |
厚目はそれを見て尋ねた。
「ゲーマーのココロのスキマ、お埋めします・・・一体
これはどういう・・・?」
「まァ、一種のボランティア活動です。悩めるゲーマー
様に無償でお力添えする事がワタシの役目です。」
「は、はあ、なるほど。」
厚目は、いまいち納得出来なかった。いくらボランティ
アと言っても、高価なソフトをそんなにたやすく赤の他
人に無償で譲る事など、出来るのだろうか?そんな事を
考えていると、喪黒がまた話しかけてきた。
「ところでそのゲーム、どんな内容なんですか?」
「え?あ、これですか?え〜っと・・・確かシューティ
ングの筈ですよ。」
「おや?ずっと探していたソフトの割には、内容を全然
ご存じないのですか?てっきりゲーム情報誌やネットな
どの評判を聞いて欲しくなったものとばかり思っていた
のですが。」
「いや、一応評判は聞いていますよ。とにかく入手困難
だという事は。」
「あれ?それだけですか?どうもゲーム内容そのものに
思い入れがある様には思えないのですが・・・。」
「い、いや別にそういう訳では・・・。」
喪黒は厚目の顔面に人差し指を突きつけた。
「ではお尋ね致しますが、一体どうしてそのソフトが欲
しくなったのですか?まさかゲーム内容など無関係で、
ただ単に『集めたいから』という理由だけで欲しくなっ
た、という事ではないですよね?」
厚目は一瞬ドキッとしたが、すぐに強い口調で言い返し
た。
「べ、別にどうでもいいじゃないですか!欲しくなる理
由なんて、人それぞれでしょう?」
「ワタシは、アナタがこのゲームをプレイして、楽しん
で頂きたいからこそお譲りしたのです。単に集める為だ
けに欲しいという事でしたら、お返しして頂くより他は
ありませんネェ。」
「そ、そんなつもりは決して・・・ま、前から一度プレ
イしてみたかったので・・・。」
「本当ですか?口から出任せではないでしょうネ?」
「と、とんでもない!元々僕はゲーマーです。断じてコ
レクターなどではありませんよ!」
「ほう、あくまでアナタはご自分をコレクターでないと
仰る。でももしかしたら、知らず知らずの内にアナタは
コレクターになっているのではありませんか?ロクに内
容も知らないゲームを欲しがる所が、何よりの証拠なの
では?」
「うっ・・・。」
厚目は思わず言葉に詰まった。
「まァ立ち話も何ですので、イッパイやりながらお話し
しませんか?この近くにワタシの行き付けの店がござい
ますので。」
「え?あ、ちょ、ちょっと・・・。」
喪黒は、渋る厚目の腕を半ば強引に引っ張り、路地裏に
入っていった。
(その2へ続く)
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