積みゲーマーの苦悩
(その1)
ここは大手ゲームショップ。今日は前評判の高かった格
闘ゲームの新作「死ぬか生きるか」の発売日。その為現
在、多くのゲーマーがレジに並んでいる。見貝もその一
人だった。
「これ・・・下さい。」
低い声で見貝は店員にレジを依頼する。店員は、それを
受けて黙々と処理をし始めた。見貝は、それを虚ろ気な
表情で見つめている。と、その時、
(ドン!!)
見貝の背中に、何かが当たった。
「!?」
見貝が後ろを振り向くと、全身黒ずくめの服を着た男が
立っていた。
「おっと、これは失礼。後ろで並んでいる人達に押され
てしまいました。」
「いえ・・・。」
低い声で、見貝は答える。黒ずくめの男は、ふとレジを
打っている店員が手にしているソフトに目を向けて、見
貝に話しかけた。
「おや・・・?あれは格闘ゲーマー待望の新作ソフトの
『死ぬか生きるか』ではないですか!そう言えば今日は
発売日でしたネ。買われるんですか?」
「え?・・・ええ、まあ。」
少し吃り気味に、見貝は答える。その表情は、やはり虚
ろ気である。
「おや、どうしたんですか?浮かない顔をして。どうも
楽しみにしていた新作を手にする様な表情に見えないん
ですが・・・?」
「え?そ、そうですか?僕は今、純粋に喜びを感じてま
すけど・・・。」
「本当ですか?何か悩み事でもあるんじゃないですか?」
「べ、別に悩み事なんて、ありませんよ。」
「例えば、本当は全然プレイするつもりのないソフトな
のに、新作だと聞くと何故か反応して買ってしまう自分
に対する悩みとか・・・。」
「う、うるさいなあ!いい加減にして下さい!アナタ一
体何者なんですか!?」
「あ、申し遅れました。実はワタシ、こういう者です。」
黒ずくめの男はそう言って、名刺を差し出した。

 ゲーマーのココロのスキマ 
お埋めします

喪黒外夢造

見貝は、怪訝そうな表情でそれを見て尋ねた。
「ええと・・・お名前、何て読むんですか?」
「喪黒外夢造(もぐろげむぞう)でございます。」
「ああ、モグロさんというんですか。なになに・・・ゲ
ーマーのココロのスキマ、お埋めします・・・何ですか
これ?」
「アナタの様にココロにスキマのあるゲーマー様のお悩
みを、解決させて頂くのがワタシの仕事でございます。」
「し、失礼だなあ!ぼ、僕のココロにスキマなんて、あ
りません!」
「いえいえ、見た所アナタのココロはスキマだらけです。
宜しければワタシがお力になりますヨ。」
「やめて下さい!・・・あ、わかった。新手の宗教かな
んかの勧誘でしょ?それで、お布施とか何とか言って、
お金をガッポガッポ取る気でしょ?その手には乗りませ
んよ!」
「いいえ、ワタシはその手の宗教の者ではありません。
それに、ボランティアですからお金は一切頂きません。」
「ほ、本当ですか?なんだか怪しいなあ・・・。」
「名刺の裏にワタシの連絡先が書いてあります。ご用の
際はいつでもご連絡下さい。では。」
「あ、ちょ、ちょっと待って下さいよ!も、喪黒さん!
・・・あれ?」
いつの間にか喪黒は、見貝の視界から消えていた。
見貝は、店員からソフトを受け取ると、何かに追われる
様な格好で店を出た。

数十分後、見貝の自宅にて。
「ふう・・・また買っちゃったよ。」
見貝は、ソフトのパッケージを見てため息をついた。
「ああは言ったけど、実は図星だよ。本当に悪い癖だよ
な。新作が発売されるとすぐに買っちゃう。しかもこの
『死ぬか生きるか』、もう他機種版を2本持っているん
だよなあ・・・。」
そう呟いてふと、ソフト棚に目を移す。そこには、「死
ぬか生きるか」のPS2版と海外DC版があった。今日
見貝が購入したのは、国内DC版であった。対応機種こ
そ違えど、内容はどれもほぼ同じである。本来なら、わ
ざわざ3本も購入する様なソフトではないのだ。
見貝は、購入したばかりのソフトを、開封すらせずにそ
のままソフト棚に納めた。
「また増えたか、積みソフト・・・。」
ソフト棚には、DC版「死ぬか生きるか」の他にも、未
開封のソフトがズラリと並んでいた。いつかはプレイし
よう、そう思ってはいるのだが、未開封ソフトは増える
一方で、減る気配は一向にない。いつしかゲーマーの間
では、この様な未開封ソフトを、やりもせずにどんどん
積み上げられる所から、「積みソフト」と呼ぶ様になっ
ていた。
「置き場所にも困ってきたけど、これからも懲りずに積
みソフトをどんどん買っちゃうんだろうな。やりもしな
いのなら金の無駄だって事はわかっているのに・・・こ
んな生活、いつまで続くんだろ・・・はあ。」
見貝は、更に深いため息をついた。
「名刺の裏にワタシの連絡先が書いてあります。ご用の
際はいつでもご連絡下さい。」
ふと、先程の喪黒の言葉を思い出した見貝は、無意識に
名刺の裏の連絡先に電話をかけていた。

(その2へ続く)



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