積みゲーマーの苦悩 (その2) |
喪黒が待ち合わせ場所に指定したのは、路地裏でひっそ りと営業しているバー「芸魔の巣(げいまのす)」であ った。何度も道に迷いながら、ようやくそこに辿り着い た見貝が店のドアを開けると、喪黒は既にカウンターに 座って水割りを飲んでいた。 「やあ見貝さん、お待ちしておりました。」 「遅くなってすいません喪黒さん。道に迷ってしまって ・・・。」 「いえいえ、お気になさらずに。」 見貝は喪黒の隣に座った。酒の飲めない見貝は、オレン ジジュースを注文した。 1分程の沈黙の後、見貝が口を開いた。 「実は僕・・・積みゲーマーなんです。」 「積みゲーマー?」 「ええ、積みソフトがどんどん増えていってしまうゲー マーなんです。」 「積みソフトと言いますと、ロクにプレイどころか開封 すらせずに放っておいてしまうソフトの事ですか?」 「あ、ご存じでしたか、積みソフトの事。」 「ええ、今ネット上などでときどき話題になってますか らネ。現在そういうゲーマーの方は増えている様です。」 見貝はオレンジジュースを一口飲み、更に続けた。 「で、最近新作ラッシュですよね?ですから短い期間で 何本も買いますから、プレイ時間が全然追い付かなくて ・・・それで、積みソフトがどんどん増えてしまってい るんですよ。今では、ソフトの保管場所にも困るくらい なんです。」 喪黒は水割りをゴクリと飲み、答えた。 「でも、開封もしないでいるのなら、いっそ買わない方 がいいんじゃないですか?第一、お金のムダでしょう?」 「でも、どのソフトも名作なんですよ!買わないと絶対 後悔する様な!だから買うんです!」 「しかし、いくら名作と言っても、実際にソフトを起動 させなければ只の飾りですヨ。それに、そんな扱われ方 をされては、折角苦労してソフトを制作されたゲームク リエイターの皆さんに失礼と言うものです。まして!」 喪黒は見貝の目を見つめ、見貝の顔面を指さし、更に人 指し指をつきつけた。見貝は、思わずのけぞった。 「既に所有している同タイトルの他機種版を買うなんて もってのほかです!それこそ積みソフトが増える最たる 原因になるんじゃないですか?」 見貝は一瞬ギョッとしたが、気を取り直し、開き直り気 味に大声で答えた。 「わ、わかってます!わかってますよ!どんなゲームで も買った以上、いつかは必ずプレイしようと思っていま すよ!同タイトルの他機種版だって、後発はオリジナル 要素が追加されているから、これもいつかはプレイしま す!決して無駄な買い物だとは思っていませんよ!」 喪黒は再び水割りをゴクリと飲み、少し落ち着いた口調 で答えた。 「なるほど・・・そこまで仰るのでしたら、積みソフト が無くなる日もそう遠くないでしょう。」 見貝は、オレンジジュースを一気に飲み干し、一呼吸置 いて答えた。その表情は、先日のゲームショップでのそ れに酷似していた。 「でも・・・なかなかそうはいかないんですよ・・・会 社勤めを始めてから、時間的余裕もなくなってきている し・・・。学生の頃は余裕があったのですが・・・。」 「でしょうネ。学生時代と比較すれば、ゲームをプレイ する時間は激減している事でしょう。」 「平日は勤め帰りで疲れているから、殆どゲームする気 力がないし、休日を目一杯使ったとしても、プレイ時間 は10数時間がいいところ。これじゃとてもじゃないけ ど追い付きませんよ。」 「確かに最近のゲームは、クリアまでに数十時間を要す る物が多くなってますし、物によっては、繰り返しプレ イを強要される事もあります。そういう状況では、1本 攻略するだけでも大変でしょうネ。」 「仰る通りです。せめて、もっとゲームする時間があれ ば良いのですが・・・。」 喪黒は水割りを飲み干してから答えた。 「よろしい!ワタシが何とかしましょう。」 「ええっ!?も、喪黒さんが?で、でもどうするつもり ですか?」 「まァワタシにおまかせ下さい。一緒に来て下さい。」 「はあ・・・。」 喪黒は席を立ち、店を出た。見貝は、喪黒に言われるま まにその後を追って店を出た。 |