積みゲーマーの苦悩 (その3) |
店を出て、裏路地を数分歩いた所で、喪黒の足が止まっ た。目の前には3階建ての建物があった。 「ここです。さ、中にお入り下さい。」 「は、はあ・・・。」 言われるままに、見貝はその建物に足を踏み入れると、 体に妙な違和感を感じた。 「・・・?」 「お気付きになられましたか?」 「も、喪黒さん、ここは一体・・・?」 「説明は後です。まずはお部屋にご案内しましょう。」 喪黒は、見貝を2階の1室に案内した。 「ここがアナタのお部屋です。」 「え?僕の部屋?」 そこは、8畳程の広さで、真っ白な壁に囲まれた何もな い部屋であったが、隅に一台、大型テレビだけが置いて あった。 見貝が部屋の中を眺めていると、喪黒が話し始めた。 「ここは、タイムルームです。」 「タイムルーム?」 「はい。現実世界の時間が5分の1のスピードで流れる 場所なのです。」 「何だって?そんなバカな事が・・・。」 「ある科学者がタイムマシンの研究の際に、時間の概念 を応用して極秘開発したのがこの建物なのです。」 「は、はあ・・・。」 「論より証拠です。この建物の中に入ったのは9時ジャ ストでした。それから現実世界の時間にして10分程経 過しております。今時計の針は何時になってますか?」 見貝は自分の腕時計を確認した。 「ええ!?ま、まだ9時2分!?ま、まさか・・・」 「お分かりになりましたか?このタイムルームの中では 現実世界の時間が5倍の長さになるのです。」 「ええ、驚きました。」 「で、先程も申し上げましたが、ここはアナタのお部屋 です。どうぞご自由にお使い下さい。」 「ええ!?い、いいんですか!?」 「はい。お部屋への持ち込みも自由ですから、ご自分の ゲームを持参してプレイする事も思いのままです。ここ を利用していれば、プレイ時間が大幅に増えますので、 積みソフトが増えるなんて事もないでしょう。」 「全くその通りです!・・・あ、でもここの部屋代なん かは・・・?」 「その点は心配御無用。完全無料です。光熱費等もご負 担する必要は全くございません。」 「か、完全無料!?本当にいいんですか!?」 「はい。使用制限等も一切ございませんから、どうぞ存 分にご利用下さい。」 「はいっ、ありがとうございます!!」 「但し一つだけ約束して下さい。この部屋はアナタが積 みソフトを全てプレイする、ゲームクリエイターさんの 努力を決して無にしないという思いがあったからこそ、 ご提供したのです。ですから、このタイムルームを利用 する以上は、今後一切積みソフトは作らないで頂きたい のです。」 「勿論ですとも!!時間的余裕があるのなら、ソフトを 積むなんて事、絶対あり得ません!!」 「そうですか、安心しました。では、この部屋の鍵をお 渡し致します。後はご自由にどうぞ。」 喪黒はそう言って見貝に鍵を差し出した。 「本当に、いろいろとありがとうございました!」 「いえいえ、お力になれて何よりです。」 |